動物園前の二条通に面して建つ「権太呂岡崎店」。
明治43年創業の老舗で、地元では「蕎麦、うどんならここ!」というほど多くのひいき客が通う名店です。
門を入ると、玄関横には茶室の「霞月席」。蕎麦店で本格的な茶室を持つのはなかなか希少です。
説明の通り、元は上級公家・徳大寺家の茶室だった霞月席。
元は現在の同志社大学大学院の敷地内にあった屋敷から、こちらに移転されました。
徳大寺家の公家の家格は摂関家に次ぐ清華(せいが)家で、
明治維新後には徳川御三家と同列の「侯爵」に列せられた名門です(後に公爵に陞爵)。
店内から観る霞月席。二条通と店舗の間の細長い敷地に露地も作られていて、いかにも京都らしい雰囲気
躙口(にじりぐち)が他の茶室に比べて大きめに作られているのが特徴。
徳大寺家という家格を考えて、貴人口に近い作りになっているとの見方も出ているようです。
秋の晴天の午後。光と影が作り出す茶室と露地の風景は俗世間を忘れさせてくれるような美しさ
店の玄関側から室内を覗くと、躙口(にじりぐち)の向こうには露地の緑。
光と影の世界に、額縁の絵のような効果も加わり、じっと眺めていたいほどの美しさでした。
玄関を挟んで茶室の反対側にもちょっとした露地風の庭
注文したのは天ざる。窓際の席だったので、庭を眺めながらお蕎麦をいただくことができました。
店の外にはテラス席もあり、間近に庭を観ながら料理をいただくこともできます。
本格的な茶室を備えた蕎麦店はなかなかありません。
茶室と露地を鑑賞しながら、老舗の味を堪能する時間と空間は京都旅行の貴重な思い出になるかと。
なぜここに徳大寺家の茶室があるんだろう?という疑問から
権太呂の岡崎店が開設された経緯に興味を持ち、
お店の方に伺ったところ、大阪の豪商だった清海(きよみ)泰堂とその子息清兵衛の別荘を買い取り、
50年ほど前に開業したとの情報を教えていただきました。
来店時はお客さんで混雑していたため、後日お電話でお訊きしたのですが、
とても丁寧にご対応して頂き、ありがとうございました。
清海泰堂は武者小路千家の茶人でもあり、小林一三翁とも交遊があったようですね(阪急文化財団)。
すぐ近くには、旅館白河院もあります。さすが日本有数の別荘街だった場所だけあり、この界隈は名園の宝庫。
いろいろな庭を巡ってみるのもいいかもしれません。
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